報道雑誌の「記事広告」

週刊朝日が、病院特集のムック本で学会理事長名を無断使用し、多数の会員病院に広告料を要求していたことが明らかになった。(最下部に引用記事)
広告料の要求方法はともかく、多くの他メディアでも似たようなことをしているのが実状だ。いわゆる「タイアップ」と呼ばれるもので、記事の体裁なので読者は広告と気付かない、ネットでいう「ステルス・マーケティング」のようなものだ。
今回のように「日本の名医」や「良い病院」云々と謳った書籍は数多く出版されているが、これは一種の紳士録商法のようなものだ。実際に記者が病気(患者)になって調査できるはずもなく、まして読者の健康を願って出すものでもない。つまり、この類の書籍出版も商売の一環でしかなく、カネを払った医者(病院)が「名医」として紹介されているだけなのだ。
テレビの情報番組も同様で、例えば飲食店などの「店名・所在地・電話番号」を表示して取り上げている場合は、ほぼ広告料が発生していると思って間違いない。視聴者や読者は「なぁんだ」と思うかも知れないが、両者(メディアと広告主)が合意した取引であり、特に法に触れるわけではない。
ただ、今回は名前を無断使用された学会理事長が朝日側に抗議し、さらに学会の会員に対して注意喚起する通知を出したために表面化し、問題視されている。一種の詐欺的な手法なのは間違いないが、道内にも卑劣な広告営業をしている報道月刊誌(以下、A誌)もある。いい機会なので行状を告発したい。
さすがに雑誌名は出せないが、ペンの力で他人の恥部を暴いて天下に晒すことを生業としている以上、出版社自身の悪行も糾弾されるべきである。なお、以下の内容は伝聞などではなく、私が実際に目の当たりにした「真実」である。
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【水増し部数は300倍】
雑誌の収入源は主に「媒体販売」と「広告」だが、出版不況と言われる昨今、媒体の販売収入だけでは経営が成り立たない。というより、広告収入の方が大きく上回っているのが現状だ。そして広告出稿を検討する際、広告主が気にするのが「発行部数」なのだが、どの雑誌も実際より水増して公表しているのが公然の秘密になっている。
このA誌も例外ではなく、公称発行部数は「3万部」だが、実際に印刷製本しているのは約3千部、つまり水増し幅は10倍ということになる。
主な販売網は、全道の書店および某コンビニチェーン店ということになっているが、道内の書店数は715(09年現在)で、某コンビニ店舗数は約1,000店だ。単純計算だが、3万部を1,715店(書店+コンビニ)で除算すると、1店舗あたり17冊以上を仕入れていることになり、簡単に虚偽だと分かる数字だ。ちなみに、書店は道内の全店舗が取り扱っているわけではなく、約半数である。
そして、約3千の流通部数に対して実売数はというと、毎号100部程度である。つまり、3万という公称発行部数は、実売数の300倍にも膨れあがっていることになる。もちろん、広告料金は「3万部」を基準にして算出されているのだ。
「公称3万部」と聞くと、「3万人が読んでいる」と単純にイメージしがちだが、これは見栄と営業戦略のための数字であり、「実売数」や「読者数」では決してない。いくら大量に印刷しても、読まれなければ広告は目に止まらず、宣伝効果などあるはずがない。
読者が100人程度しかいないA誌に、広告主は出稿面積によっては数十万円もの広告料を支払っているのだ。水増しをするにも限度があるはずで、ここまでやると、もはや詐欺である。
【騙し討ちのインタビュー】
A誌は、とにかくインタビュー記事が多い。場合によっては1号で7~8人ものインタビューが掲載されることもある。対象者の話を聞き、文章にするだけなのだから、通常の報道取材よりは手間もかからず、何より「カネになる」場合が多い。政治家へのインタビューなら特に…。
かつて、ある地方都市の首長選挙前に立候補予定者へのインタビュー取材をするということで、A誌の編集長に同行する機会があった。対象者は2名で、いずれも有権者へのアピールができるからと取材依頼を快諾した。
ところが、編集長はインタビューが終わってから初めてカネの話を持ち出した。いわく「不景気で出版経営は楽じゃない。自身を宣伝できることだし、(雑誌印刷の)紙代・インク代として20万円ほど都合できないか」と…。
当然、相手はビックリである。報道の一環だと思えばこその取材応諾であり、ただでさえ選挙資金がかかるのに、カネを要求されることが分かっていれば断っていたはずだ。編集長の口からは「払えなければ(原稿は)ボツになるかも知れない」などと脅しのような言葉が出たこともあり、最終的には一人が渋々ながら支払った。なお、記事は「公平」を装い、2人分が掲載された。
繰り返すが、A誌の実売数は全道で約100部である。このうち、人口が20万にも満たない当該市有権者の、いったい何人が記事を読んだのだろうか。ちなみに、ある現職国会議員はかつて、A誌の記事に100万円も支払っていた。
このような「騙し討ち請求」も、報道という武器を利用した詐欺行為である。カネが目的なのであれば、取材要請の段階で話をするのが経済社会のルールだ。選挙前という弱みにつけ込む卑劣なやり方は、到底許されるものではない。
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2例を挙げてみたが、これらは極端なケースであり、もちろん他の雑誌も同じようなことをしているわけではない。だが、その記事が「真実を伝えたい」というジャーナリズム精神によるものなのか、単なる提灯(タイアップ)記事なのかを見極める“眼力”を、読者はもっと鍛えるべきなのかも知れない。
「無断で病院に多額の広告料要求」 日本肝胆膵外科学会が週刊朝日に抗議
「週刊朝日」が日本肝胆膵(かんたんすい)外科学会(宮崎勝理事長)の名前を無断使用し、病院施設に多額の広告料を要求していたことが判明したとして、同学会が週刊朝日側に抗議文を送付していたことが20日、分かった。
学会によると、週刊朝日は平成25年2月発売予定の「手術数でわかるいい病院2013」に掲載する広告企画で、「取材協力」として学会と理事長名を無断で表記。多くの病院に広告料として100万円以上を要求していたとされる。
学会は約3,500人の会員医師に対し、「学会と宮崎理事長個人は週刊朝日の企画に対し、一切関わりを持っていない」として注意を呼びかけている。
抗議を受けた同誌発行元の朝日新聞出版によると、同社は15年から「週刊朝日ムック」として、「手術数でわかる-」をシリーズ化。広告掲載は12~130万円だが、2013年版の広告募集は始めたばかりで、まだ申し込みはないという。
同社は産経新聞の取材に、「広告会社によると、宮崎先生は取材に応じていただいたとのこと。『一切関わりをもっていない』とされていることには、いささか当惑している」と回答、「直接会って説明する」としている。
(産経新聞 2012.12.20)
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カテゴリ : 報道誹議