手抜きメディアの「互いのふんどし」

「人の褌(ふんどし)で相撲を取る」という有名な言葉がある。その意味は言うまでもなく「他人のものを利用したり、他人に便乗したりして自分の利益にすること」だ。
あるネットニュースを読んでいると、ページの下段に「おおすめ」やら「関連」という名目で様々なニュースのタイトルが列挙される場合があるが、その多くがテレビやツイッターで芸能人が発言したことをそのまま簡略的に伝えるだけという、ネット版メディアによる「素人記事」である。
例えば、スポーツ報知の本日14:23配信の記事は、こんな具合だ。
和田アキ子、志村けんの新型コロナ感染で「変なデマが流れていて、延命治療という人が…」
29日放送のTBS系「アッコにおまかせ!」(日曜・前11時45分)では、新型コロナウイルスの感染拡大について特集した。スタジオではタレントの志村けんが新型コロナに感染していたことを伝えた。
志村が人工心肺で治療をしているという報道があり、司会の和田アキ子(69)は「変なデマが流れていて、私のところには延命治療だっていう人がいるんですよ」と話した。
これに解説で出演していた北村義浩氏は「とんでもないですね。治ってバカ殿とかやるために」と否定すると、和田ら出演陣は安堵(あんど)していた。
単にテレビを観て、出演者の部分的なやり取りを切り取って書くだけで記事は「一丁上がり」である。しかも、それが国民に伝えるべき内容というわけでもなく、どうでもいい井戸端会議である。この手法の元ネタはテレビに限らず、各種のSNSも同様で「○○が、ツイッターにこんなことを書いた」などと報告を書くだけの、中学生でもできるような作業である。
ウェブ版には「紙面」という制約がないためネタの取捨選択が必要ない「書き放題」であり、また、たとえ粗末なものでも記事は記事、タイトルで興味を惹かせて誘導しPV(ページビュー)を稼ぐという目的もあるのだろうが、その姑息な姿勢に報道機関としての矜持は微塵も感じない。
そして、引用されるテレビの側も負けていない。特に「なんちゃってニュース番組」のようなバラエティ番組では、新聞記事をそのまま拡大してパネルに貼り、記事の引用部に赤線を引き、読み上げるだけというパターンが多い。
いずれのケースも、「経費」「時間」「記者の力量」が必要になる独自取材は徹底的に避け、安易な「パクリネタ」で済まそうとする意図が透けて見える。いわば「互いのふんどしで相撲を取り合っている」状態だ。
ただでさえ日本のメディアは、記者会見やプレスリリースなどの内容をそのまま報じる「発表報道」が圧倒的で、独自の視点や取材による「調査報道」ができない(したくない)のだが、あろうことかテレビやSNSなど誰もがアクセスできる媒体での井戸端会議をそのまま引用して済ませるケースがあまりにも多く、そんなものは報道でも何でもない。
プロの報道機関なら、記者発表や芸能人の戯れ言に頼るのではなく、国民に対して本当に伝えなければならないことをあぶり出し、プロにしかできない切り口や手法で取材してこそ、国民の知る権利に資することになる。
そういう意味では、いわゆるマスメディアの中では格下に扱われている「雑誌」(報道系)がいちばん“独自取材”という報道機関らしい仕事をしているという事実を、テレビや新聞などの自称「格上メディア」やスポーツ新聞のウェブ編集者には自覚してほしいものだ。
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カテゴリ : 報道誹議