永遠も半ばを過ぎた

フリーデザイナー兼カメラマンの苦言・放言・一家言

きな臭い 孫正義の「善行」

2020/03/15(日)
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去る11日、ソフトバンクグループの会長である孫正義がツイッターに「新型コロナウイルスに不安のある方々に、簡易PCR検査の機械を無償で提供したい。まずは100万人分。申し込み方法等、これから準備」と投稿したところ、これに批判が殺到したために前言撤回、「マスク100万枚の寄付」に変更したという。

批判の多くは「やみくもな検査によって軽症者も病院に殺到する」「韓国とイタリアで徹底検査して医療崩壊している現実を知らないのか」というものだ。

この新型コロナ騒動に関しては、テレビによく出ている「専門家」の意見も各人各様で、もはや何が正解なのか事実なのかも分からないカオスな状態になっているが、少なくても医療や感染症に関してはド素人の御仁が誰に相談することなく行うパフォーマンスとしては、いささか軽率で度が過ぎたようだ。

思い起こせば、孫正義は9年前の東日本大震災の発生時にも「100億円を寄付します!」とブチ上げて注目を浴びたものの、それから2ヶ月が過ぎても寄付の事実が確認されないため「本当に寄付したのか?」と疑問の声が巷に流れるようになった。

そんな折に発表されたのが「公益法人『東日本大震災復興支援財団』に40億円を寄付し、残りを赤十字や各自治体に配布する」というものだった。だが、この財団の理事(当時)には孫正義自身を筆頭に、自身と関係が近い政界関係者やソフトバンクグループの幹部がずらりと名を連ねていたが、組織の活動目的は不明で、復興支援に動いたという具体的な事実も確認されなかったという。

つまり、寄付すると公言していた100億のうち、40億は事実上「自分に寄付した」ようなものだ。まぁ各種の税金対策という目的もあったのだろうが、それにしてもやり方が姑息である。

とはいえ、60億円分は実際に自治体等へ寄付したようなので本来は称えられるべきなのだろうが、だったら寄付額を「100億」ではなく、最初から「60億」と言うべきだった。今回のPCR検査やマスクの件も然りだが、孫正義はよほど「100」という数字が好きなのだろう。

ところで、世界の至るところで発生する災害等によって世間の注目が集まっている時、世の著名人たちはなぜ「寄付の事実や金額」を発表するのだろうか。寄付行為は紛れもないい善行ではあるのだが、それをことさらに公表することに違和感を感じる向きは少なくないだろう。

孫正義も、件の「100億円寄付」の発表の際に「最初は黙して行うことを考えたが、有言実行に切り替えた」と語っていたが、これ自体も、わざわざ恩着せがましく言うことではないだろう。

一般市民で例えるなら、物乞いに千円札1枚を差し出す姿を自撮りし、SNSで「今日、乞食に千円も恵んでやりましたーっ!」と自慢げに語るようなものだ。

昨今は「インスタ映え」なる言葉が流行し、他人から「いいね!」をもらうため常に「どこかに行って、何かをしなければ」という強迫観念を抱く風潮がある。著名人なら特にその傾向は強く、自身の生活が脅かされない程度の金額を寄付・発表して世間の注目を浴びることで承認欲求を満たしたいのだろう。

欧米では、富裕層の多くは「寄付は当然」という意識を持ってそれを実行しているが、いちいちその事実を公表しない。なぜなら、公表した瞬間にその善意が「偽善に変わる」ことを分かっているからだ。

一方、「しない善より、する偽善」という言葉がある。たとえ偽善でも、しないよりはマシという意味だが、寄付金を受ける側にとっては、たとえ偽善だとしてもありがたいものだろうが、「感謝しろよ」と言わんばかりの公表寄付より、見返りを求めない匿名寄付の方がよほど善意を感じるし、謝意は大きいはずだ。

特に日本人は慣習として、人から何かを贈られた場合に「お返し」を考える。少なくても寄付に対してはその必要はないのだが、寄付者が誰なのか分かってしまうと、受ける方はずっとプレッシャーを持ち続けることになる。本来、善行とは人知れず行うものであり、それを自ら吹聴するものではない。

孫正義が率いるソフトバンクグループは、昨年秋頃から深刻な株価下落の一途を辿り続けており、そんなタイミングでの新型コロナ騒動である。突然、約3年も放置していたツイッターを更新して「PCR検査100万人プラン」をブチ上げることによって、文字通り「株を上げる」つもりだったのだろうか…(笑)

一般には「カリスマ経営者」と言われることの多い孫正義だが、人望がないため経済界の中では孤立しているという。9年前の件といい、国民の混乱に乗じて「施し」を与え、それを誇らしげに公表するという自己顕示欲の強さが「本当のカリスマ」になれない要因のひとつなのかも…。


(文中敬称略)




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