やはり報われない「プロ免許」

昨日の北海道新聞に「観光バス運転手 解雇相次ぐ」という主題の記事。リード部分は以下のように書かれている。
新型コロナウイルスの感染拡大で観光客が激減する中、道内の観光バス会社で運転手の解雇が相次いでいる。
インバウンド(外国人観光客)の急増を背景にした運転手不足から一転、解雇に踏み切った会社は「業績の回復が見通せず、苦渋の選択だった」と苦しい胸の内を明かす。
北海道バス協会によると、観光バス業界の損失は胆振東部地震の際の9億円に迫る見通し。政府は緊急対策を打ち出したが、解雇の歯止めになっていない。
貸切(観光)バスの運転手は、運転免許の中でも最も難関な「大型二種」という国家資格を持ち、降雪地帯では頻繁に「氷の峠越え」もしながら数十人もの「人命」を預かる責任を負わされるのに、観光客減少で数ヶ月の売上が見込めなくなった途端、こうして案の定の仕打ちである。
貸切バス運転手がいかに過酷な条件下で働いているかは過去のエントリで詳しく書いているが、必要な技術や責任の重さに対して正当な報酬を得られない代表的な職種であろう。
そういう現実を知らず、拙い発想と分析によって免許制度(道路交通法)を改正しようとしている警察庁の「お役所仕事」を思い出した。
この改正案は、バスやタクシーの運転に必要な二種免許の受験資格について、これまでの年齢要件を「21歳以上」から「19歳以上」に、経験年数要件を普通免許保有「3年以上」から「1年以上」にするというもので、二種の他に中・大型免許の取得についても同様に緩和する。
今日現在、今国会でまさに審議中なのだが、他にも「あおり運転に対する罰則強化」もセットの法案なので、おそらく全会一致で可決成立するのは確実だろう。
警察庁がなぜ免許制度の改正(条件緩和)に踏み切ったのかというと、バス・トラック等の運輸業界から「二種や大型の免許取得年齢に達していないため、若い従業員(18~20歳)を採用できない」という声が上がっていたためらしい。つまり、18歳で普通免許を取っても、現行法では21歳になるまで免許のステップアップができないため、その年代は雇えないという主張だ。
18~20歳ということは高卒者をターゲットにしていると思われるが、普通免許保有1年以上とは、つまり「初心者期間終了後」である。運転手としてはもちろん、社会人としてもまだまだ未熟な時期から数十人の人命を預かるバスや10トン超の貨物を積載するトラックを運転させること自体に無理がある。
そもそも「若者の免許・クルマ離れ」が言われている中、この条件緩和によって20歳前後の若者がどれほど二種や大型免許の取得に動く(つまり運輸業界の「運転手」を目指す)のか、はなはだ疑問である。
何でもネットで調べることができるこのご時世、運輸業界の下請け構造やダンピングによって末端の運転手がどのような待遇で働かされているかなどすぐに分かる。まして大きな事故など起こそうものなら、個人の財産である免許を失うばかりか、場合によっては未成年にして刑務所送りになる可能性もあるのだ。
このような「ハイリスク・ローリターン」な職種を、社会人1年生の時期から選ぶ若者が多いとはとても思えない。
普通免許人口の保有年数の比率は、3年未満より3年以上の者が圧倒的に多いのは明白だが、では今までも3年経過した者が「待ってました」とばかりに二種や大型免許を取るべく教習所に殺到していたのだろうか。そうではないから慢性的に人手不足なのだろう。
安易に法改正を求める前に、業界や経営者として先にやるべきことがあるのではないのか。特に貸切バス運転手は、求められる技術や責任の大きさに比べて待遇があまりにも悪すぎるうえ、今回のように1~2ヶ月程度の受注減で簡単に解雇されるようでは、どれほど免許取得条件を緩和したところで何の意味もない。
いつか新型コロナが終息して観光客が戻ってきたとしても時すでに遅し、解雇された運転手は戻ってこないだろうし、現状の待遇のままではこの道を目指す者も多くはないだろう。
やはり、大型二種は「報われないプロ免許」である。
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カテゴリ : 経済産業