悪しき判例を作った「ファウルボール訴訟」

札幌ドームでプロ野球観戦中、ファウルボールの直撃で右目を失明した30代女性が、北海道日本ハムファイターズ、札幌ドーム、札幌市に計約4,660万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、札幌高裁は1審判決から減額し、球団に約3,357万円の支払いを命じ、それ以外への請求は棄却したという。
高裁判決によると、球団は「安全策が欠いていたとは言えない」としながら、原告女性は球団に招待された子供の保護者として来場していたため「危険性を認識していないこと予見できた」との見解を示した。
どうやら、女性が子供の世話をしている時にボールが飛んできたようで、打球の行方は見ていなかったらしい。とはいえ、熱心なファンか招待客かによって危険性の認識度を判断するとはずいぶん危険なやり方ではないのか。
招待なのか自主的なのかに関わらず、硬いボールが飛び交うプロ野球場へ来た時点で、ボールに直撃されたとしても「自己責任」というのが暗黙の了解のはずである。
防護ネットやフェンスを張り巡らせることによって「臨場感が薄れる」と球団が危惧するのも当然で、テレビで観ていれば全てのプレーがアップで見られるにも関わらず、選手が「米つぶ程度」の大きさにしか見えない球場にわざわざ行くのは、まさに臨場感を味わうためだ。
件の女性に関しては、失明までしてしまったのは同情を禁じ得ないものの、数万人が観戦していた中での「ただ一人」になってしまったのは運が悪かったとしか言いようがなく、その責任を球団やドーム側に求めるのはお門違いである。
このような「ゴネ得」を許した判決が前例(判例)になると、今後はファウルボールによって怪我をした観客はこぞって訴訟を起こすことになるだろう。その結果、選手たちがプレーをするフィールドはサーカスのライオン芸よろしく全て金網で覆われることにもなりかねない。
ちなみに、MLB(米メジャーリーグ)でも同様の訴訟が数多く提起されるものの、ほぼ全ての案件が「自己責任」として門前払いされるという。
自分に不利益があると主催者などに管理責任を求める昨今の風潮は、結果的に社会全体を萎縮させることにもなり、事なかれ主義に走らせることになるし、まさに今の時代はそのような世の中になってしまっているようだ。
球団側はぜひ上告して最高裁で争ってほしいものだが…。
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カテゴリ : 時事社会