「共謀罪」は天下の悪法

小泉内閣が2000年以降、国会に法案を幾度となく提出したものの、全て廃案になった共謀罪。安倍内閣は今秋の臨時国会にまたぞろ関連法案を提出する構えを見せていたが、集団的自衛権の解釈問題で低下した支持率の回復を優先し、見送る方針を固めたという。(最後部に報道記事)
国または国民の利益ではなく、中韓に日本を売り渡すような政策ばかりだった「民主党政権」という日本の暗黒時代を過ごした反動も相まって、私は現在の安倍政権に対しては一定の期待と評価をしている。
特定秘密保護法や集団的自衛権の解釈変更に関しても、(それらが正しく運用される前提で)日本の安全保障(=国益)のための「必要悪」と信じたからこそ支持した。しかし、この「共謀罪」だけはどう考えても賛成できない。
この罪は、事件がまだ実行されていなくても、複数人で話し合ったり、その意思を確認したりするだけで処罰されるというもの。「犯罪行為そのもの」ではなく、その意思や合意だけで犯罪が成立するのだ。つまり、仲間内でテロに「共感した」り、麻薬を売りたいと「思った」り、銀行強盗をしたいと「考えた」りするだけでも共謀罪が適用される可能性があるのだ。
法務省は「飲酒の席で怪気炎を上げただけでは共謀罪は成立しない」との見解を示していたが、では、何をもって「共謀」とするのか具体的に言及していない。法律というものは、時の権力が恣意的な運用をしてきた歴史的な経緯がある。政党のビラをポストに投げ込んだだけで住居侵入罪で逮捕されてしまう世の中であることを考えると、拡大解釈されないという保証はない。
戦前の日本には、当時の国家体制を「変革」したり「否定」する運動を取り締まることを目的に制定された「治安維持法」という法律があった。これもまた、反体制組織を結成するための話し合いに加わっただけで処罰の対象になる仕組みになっていた。これによって多くの文化人やジャーナリスト、さらには宗教団体や右翼団体の関係者までもが摘発されている。共産党員と一緒に食事をしただけで「国家転覆の意思あり」と逮捕された人物もいた。
行動を起こさなくても、考え方や心のあり方を取り締まる―。まさに治安維持法がそうであったように、共謀罪も「人の内面を取り締まりの対象としている」という点では大差がない。
では、そもそも共謀罪の創設が検討されているのはなぜだろうか。
提案の根拠となったのは国連の「越境組織犯罪防止条約」(00年)である。この条約は国境を越える犯罪(麻薬事犯、テロなど)を取り締まるためのものだが、日本はまだ批准していない。その理由は、「対応する国内法が整備されていないため」であり、「この条約を批准するために共謀罪の創設が必要」という理屈で考えていた。
そもそも日本は、国連におけるこの条約の審議過程において「共謀罪の創設は日本の法体系になじまない」と慎重姿勢を見せていた。しかし、一転して03年から「国際協調」を大義名分に成立を急ぐ動きが何度も見られた。だが、さすがに「人の内面を取り締まる」共謀罪には、保守派論客の間でもその危険性を指摘する声が大きかった。
そうしたこともあり、06年国会では成立を免れたが、ついには対象犯罪を大幅に減らし、そのうえ「テロ・組織犯罪謀議罪」と改名した修正案を自民党は提案した。修正案では「謀議罪」の対象を「テロ犯罪」「薬物犯罪」「銃器犯罪」「密入国・人身取引犯罪」「その他資金源犯罪など」の5つに分類し、それらに関係する犯罪のみに適用される…との主張である。
原案が道路交通法違反まで対象としていたのと比較すれば、確かに対象犯罪は絞り込まれた。しかし、「共謀罪」が「謀議罪」に変わろうと、その本質はなにも変わっていないどころか、法案を通しやすくするための方便ではないかと指摘する声もある。何にせよ、この法律の問題点は対象犯罪の数ではなく「犯罪を行う前の人間も処罰することができる」という点にあるのだ。
共謀罪(謀議罪)が施行された後は、警察の捜査が今以上に個人のプライバシーヘ踏み込んだものになる可能性が高い。実行に移される前の犯罪をどうやって取り締まるのか。証拠を掴むために「(市民の)電話やメールを傍受する」ことが合法になるのである。
言うなれば「一億総犯罪者予備軍」という性悪説が大前提であり、国家が全国民を信用していないことを証明する。現行の「盗聴法」の適用範囲も一気に拡大することになるだろうし、犯罪とは無関係な会話まで警察に蓄積されていくことになる。そのようなことが常態化すれば、もはや対象犯罪の数などは問題ではなくなるのだ。
6年後に東京オリンピックを控え、「テロ防止」は国家として当然の課題であろう。だからといって、国民が自由に会話し、考えることすら躊躇しなければならない監視社会になってしまっては本末転倒も甚だしい。そもそも、共謀罪の創設でテロを確実に防げると考える方が間違いで、傍受されない環境で謀議されるだけである。
「越境組織犯罪防止条約」の批准は、現行法の範囲内で十分に対処できるはずだ。なにせ、法律の拡大解釈はお手のものなのだから…。「国際協調」を錦の御旗に、国民が萎縮してしまう法律を作るのは愚策としか言いようがなく、この「天下の悪法」だけは断固として反対したい。
共謀罪 法案先送り 支持率優先、臨時国会に提出せず
政府は27日、殺人など重大犯罪の話し合いに加わっただけで処罰対象となる共謀罪創設に関し、今秋の臨時国会には関連法案を提出しない方針を固めた。集団的自衛権の行使容認問題で低下した内閣支持率の回復を優先し、世論の反発が予想される課題は避けるべきだと判断した。政府高官が明らかにした。ただ、国際的なテロ対策強化の流れを受け、政府内には早期の法案提出を目指す動きもあり、今後も駆け引きが続きそうだ。
共謀罪は、具体的な犯罪行為がなくても、2人以上が話し合い、犯罪の実行で合意があれば処罰の対象になる。同罪が広範囲に適用されれば、国家による国民監視につながる恐れがあり、野党や日弁連などが批判している。
このため政府が法案を国会に提出すれば、集団的自衛権の行使容認に続いて、世論を二分する可能性が高く、菅義偉官房長官は22日の記者会見で「慎重な上にも慎重に検討すべきだ」と強調。政府高官は「臨時国会の法案提出はだめだと言っている」と明言した。
共謀罪創設については、法務、外務両省などが早期の法整備を主張、谷垣禎一法相は22日の会見で「必要なことは否定できない。諸外国と協調してテロ対策にあたるため、やらなければならない課題であることは間違いない」と前向きな姿勢を表明。政府が集団的自衛権の行使に向けた関連法案提出を来年の通常国会に先送りしたことを受け、今秋の臨時国会で共謀罪創設に着手するとの見方も浮上していた。
政府は臨時国会での法案提出は見送るものの、日本は2000年に参加国に共謀罪創設を求める国際組織犯罪防止条約に署名しており、「このままでは国際社会から日本はテロに甘い国だと思われる」(政府高官)との声は強い。小泉政権が過去3回提出した組織犯罪処罰法改正案はいずれも廃案となったが、20年の東京五輪・パラリンピック開催に向けてテロ対策や警備強化の議論が加速するのは必至。安倍晋三首相は内閣支持率の動向などを踏まえ、共謀罪創設の時機を探る方針だ。
(北海道新聞 2014.07.28)
- 関連記事
-
- 第二次安倍改造「性差別」内閣 (2014/09/04)
- 女子児童と「意見“交歓”」? (2014/08/10)
- 「共謀罪」は天下の悪法 (2014/07/28)
- 社民党の「断末魔」 (2014/07/18)
- 地方議会は「詐欺師」の巣窟 (2014/07/12)
カテゴリ : 政治選挙