永遠も半ばを過ぎた

フリーデザイナー兼カメラマンの苦言・放言・一家言

五輪とメディアと愛国心

2014/02/24(月)
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写真(C) 時事通信社

史上まれに見る厳戒態勢が奏効したのか、心配されていたテロが発生することもなく無事にソチ冬季オリンピックが閉幕した。(まだパラリンピックが控えているが、ひとまずということで…)

夏季・冬季に限らず、オリンピック時における日本メディアの「メダルだ!色だ!個数だ!」というバカ騒ぎはいつもの光景だったが、女子フィギュア・浅田真央選手の劇的な「ドラマ」を目の当たりにして、「メダルこそが価値の全て」と盲目的に信じる勲章至上主義が少しでも改まってくれたら…と願いたいものだ。

「オリンピックには魔物がいる」という言葉があるが、魔物の正体は「メディアや国民の過剰な期待」による重圧であり、それをはねのけられなかっただけのこと。期待されたメダルを逃した選手についてメディアはこの言葉を多用するが、「魔物はアンタたちだよ」といつも思う。

オリンピック(以下、五輪)に出場するほどのアスリートがその競技を始めた時期は、大抵が幼少の頃だろう。その際、遠い目標として五輪出場を夢見るのは不思議ではないが、その前提が「国民のため」と考える子供などは皆無のはずだ。ところが、いざ五輪出場選手になり、しかもメダル圏内の実力があればあるほどメディアによる「魔物」に取り憑かれることになる。

1992年アルベールビル五輪の際、女子フィギュアの伊藤みどり選手に「銀でごめんなさい」と言わせてしまったのがいい例だが、本来は自分自身のために戦っているはずのアスリートに、銀メダルを取ってなお国民に謝罪させてしまったのである。そもそも選手に「国民の皆さんのため」と言わしめる時点でおかしい話なのだが、そこはメディアの商売根性である。

普段は「日の丸」と「君が代」を忌み嫌い、政府による愛国心教育に対しても「右傾化」というトンチンカンな言葉で反対している左翼メディアが、なぜか五輪の時だけは「ニッポン!」「日の丸!」を連呼して愛国心を煽り、しかも日章旗を背負うメダル獲得選手の写真や映像を嬉々として掲載・放映するという無節操さも、全ては販売部数や視聴率のためなのだろう。

五輪は、世界中からトップアスリートが集まり、スポーツを通じて世界平和を訴え、人種・言語・文化の壁を越えた競演を見ることのできる希有なイベントだ。「出るからには勝つ」という目的意識は当然なのだろうが、どうにも気張りすぎである。国別対抗戦ではあるが、あくまでも「平和の象徴」としての大会であり、戦争じゃあるまいし「国家の威信をかけて戦う」ものではない。

日本では「金メダル=世界一」という価値観が確立しているようだが、五輪はその名の通り【Olympic Games】であり、決して【Championship】ではない。だから世界選手権には出たいが、オリンピックに興味ないというアスリートも多数いるという。その上で五輪の金メダルが果たして「世界一」なのかどうか、はなはだ疑問だ。

ともあれ、日本メディアは五輪という「平和の祭典」を「お祭騒ぎ」と履き違えることなく、あるいは日本人選手とキム・ヨナだけを追うのではなく世界のレベルを報じ、そして人種や国籍を越えて健闘を賛えることができる懐の深さと視野の広さを持ってほしいものだ。

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カテゴリ : 時事社会
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