ゴーストライター騒動

18年間、クラシック作曲家・佐村河内守氏のゴーストライター(以下、ゴースト)を務めていた新垣隆氏が真実を暴露し、何やら大騒ぎになっている。(最下部に報道記事)
「現代のベートーベン」という異名を持ち、全聾の天才作曲家としてメディアに密着取材をさせ、「広島市民賞」を受賞し、ソチ冬季五輪では氏の楽曲が日本のフィギュアスケート選手の演技曲にも選ばれるなど順風満帆だったところへの「爆弾投下」だったようだ。
佐村河内氏のかつてのインタビュー映像を見た限り、とても全聾とは思えないほど流暢に言葉を発していたが、「実は(耳は)聞こえている」という話もあながち嘘ではないのだろう。「被爆2世で全聾の作曲家」にしておいた方がセンセーショナルであり、NHKなどが氏を題材とした特番まで放映したのも奏効し、CDのセールスも稼げたのだろう。
ただ、報道や「街の声」を聞く限り、作品そのものより「全聾である」ことに価値を見出し、報道され、評価されていたようだ。全く同じ楽曲を、名もなき一般人(例えばワタシ)が発表したら、佐村河内氏のように18万枚も売れることなどあり得ず、むしろ親戚縁者に頼んで18枚も売れるかどうか…だろう。
いわゆる「STAP細胞」を作製する世界初の方法を発見した小保方晴子氏をめぐる報道姿勢に本人がブチ切れたように、メディアは報じるべき本質よりも当人の「過去」や「感動」を前面に押し出してばかりだから「レベルが低い」と言われ、今回の騒ぎも不必要に大きくなるのだ。
ただ、佐村河内氏に関する報道が全て事実だとすれば本人が非難されるのも当然として、ゴーストがそれを自らの意志で明かしてしまうのも「掟破り」であり、大きな「ルール違反」である。
この件に限らず、音楽業界や出版業界では数多くのゴーストが暗躍(?)しているのはあまりにも常識的な話。かつて、タレントの松本伊代が自身のエッセイ本について内容を質問された際に「まだ読んでいない」と発言してしまった有名な例もあるが、特に「シンガーソングライター」と呼ばれる音楽アーティストがゴーストを使うケースも決して珍しくないようだ。
もちろん、厳密に言えば著作権法違反なのだが、業界では「公然の秘密」として問題視されないのもまた常識だという。当該アーティストのファンにとっては決して気持ちのいい話ではないだろうが、だからこそゴーストは「影武者」と自覚して仕事を引き受けた以上、そのことは墓場まで持って行かなければならない。
今回の騒動の要因は、実際の作曲者がゴーストだったことではなく、新垣氏が事実を「ぶっちゃけちゃった」ことと、佐村河内氏があまりに神格化されていたため…というところだろう。
つまり、一連の食品偽装表示事件も含めて「世の中、何でもかんでも信用しちゃダメよ」ということか。素直な日本人にとっては耳の痛い話で…。
ゴーストライターが謝罪、「私は共犯者」=作曲家・佐村河内さんの問題で
作曲家の佐村河内守さんが別人に曲作りを任せていた問題で、「ゴーストライターをやっていた」と告白した新垣隆さんが6日、東京都内のホテルで記者会見し、「佐村河内氏が世間を欺いて発表しているのを知りながら、指示されるまま作り続けた私は共犯者。本当に申し訳ありませんでした」と謝罪した。
新垣さんは会見冒頭、用意したコメントを読み上げた。その中で、「佐村河内氏と出会った日から18年にわたり、彼の代わりに曲を書き続けた」と改めて告白。「当初は軽い気持ちで曲を書くことを引き受けたが、彼がどんどん世間に知られるにつれ、この関係が知られるのではないかと不安になった。これ以上、世間を欺きたくないという気持ちが大きくなった」と述べた。
また、フィギュアスケート男子日本代表の高橋大輔選手がソチ五輪で、佐村河内さんが作ったとされた曲を使用することを挙げ、「このままでは彼と私のうそを強化する材料になってしまう。高橋選手が何も知らず、偽りの曲で演技したと世界中から非難が殺到するかもしれない」との懸念を感じたといい、「高橋選手にはこの事実を知った上で堂々とオリンピックで戦ってほしいと思った」として、記者会見を開いた理由を説明した。
佐村河内さんに対しては、「『こんなことをやめよう』と何度か言ったが、聞き入れてくれなかった」といい、「あなたが書かないなら自殺すると言われた」とも明かした。また、「彼を通して私の作品が世の中に受け入れられ、うれしかった気持ちがあることは否めない」との思いを明らかにした。
新垣さんによると、作品を作るたびに佐村河内さんから報酬を渡されたといい、これまでゴーストライターとして得た金額は「700万円前後」に上るという。新垣さんは佐村河内さんの作品としてCDを購入した人々に対し、「申し訳ありません」と陳謝した。
(時事通信 2014.02.06)
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カテゴリ : 時事社会