Mダックス遺棄報道に見る「先鋭世論」

(イメージ写真。本文とは関係ありません)
本日付の読売新聞によると、大阪府内の共同住宅の一室でミニチュアダックスフント十数匹を置き去りにしたとして、大阪府警は動物愛護法違反(遺棄)容疑で住人の女(24)の逮捕状を取ったという。(最下部に報道記載)
検証報道ではなく、警察に発表された事実だけを並べた単なるストレートニュースなのだが、これを受けてネット上ではちょっとした騒ぎになり、様々な表現が飛び交ってる。
「最低!」
「飼う資格なし!」
「胸くそ悪い!」
「名前を晒せ!」
「こいつも殺せ!」 など。
確かに、取り残され死んでいった犬にとっては迷惑千万な話ではある。しかし、表面上の事実しか報じられていない段階にも関わらず、感情を剥き出しにして女性を罵倒する書き込みには強烈な違和感を感じ、このような動物愛護世論の「先鋭化」は危険視せざるを得ない。
そもそも、女性の失踪が未必の故意を前提とした逃亡なのかどうかも判然としない。あるいは何らかの事故に巻き込まれ帰宅できないという可能性も考えられるはずである。また、かつて同居していた親族が飼い始めたという情報が事実だとして、犬を置き去りにして出て行かれた女性は、ある意味では被害者だった可能性も十分にある。
つまり、現時点での「状態」はわずかに報じられても、決して「事情」は分かっていないのだ。だが、「犬が放置され、餓死した。飼い主は行方不明」という事実のみに反応し、「女性が犬を持て余したため、悪意を持って逃走した」という“あらすじ”を自身で完成させてしまう。そして、ブログやSNSを利用して「正義の鉄槌を下す」という構図が広がっているのだ。
「本人の行方が分からない」ということは「事情がまるで分からない」ということに他ならない。法律の条文を読めば、客観事実である「遺棄状態」だけで逮捕できる刑事案件ではあるが、それにしても安易に逮捕状を出した裁判所の判断にも疑問は感じるうえ、「逮捕→実名報道→取り調べ→本丸(責任者)は別だった」ということにでもなれば人権問題になりかねない。
しかし、そうした思い込みや予断によって「結論ありき」の思考になると、大概がフライングで終わるものだ。今回のネット上での「村八分」も同様ではないと、誰が言い切れるだろう。
そして何より恐ろしいのは、「可哀想な動物」がクローズアップされると一斉に反応し、過激な動物愛護世論が吹き出ることだ。中には「(追及対象は)同じ苦しみを味わって死んでしまえ」という、ハムラビ法典さながらの言論を展開する向きも決して少なくない。
そもそも、動物愛護精神の多くが「可哀想」という感情論で形成されるため、動物を苦しめたり殺したりする奴は「許せない、極刑に処する」という気持ちなのだろう。だが、多くの愛護家を取材してきた経験上、こうした思考は「動物の命のためなら人間が死んでも構わない」という歪んだ価値観を本気で持ち、社会秩序の在り方も動物を基準にしているケースがある。
さらに、自身の動物愛護理論が「国民の総意」だと信じ込んでいる場合もあり、それによって暴力や不法侵入も辞さない違法な動物レスキュー団体も存在する。動物愛護に特に関心のない大多数の世論に「動物愛護者は胡散臭く、信用できない」という声が大きいのも、こうした思想や言動と決して無関係ではない。
これ以上「動物愛護」という言葉が社会から猜疑心を持たれぬよう、今回のような時こそ感情ではなく、理性と想像力を持って本質を探る姿勢が必要なのではないだろうか。私は職業柄、それを強く求められる立場ではあるが、自戒を込めて提言したい。
ミニチュアダックス10匹無残、女が飼育放棄か
大阪府松原市内の共同住宅の一室にミニチュアダックスフント十数匹を置き去りにしたとして、府警生活環境課と松原署が、動物愛護法違反(遺棄)容疑で、住人の女(24)の逮捕状を取ったことがわかった。
通報を受けた府警が今月上旬、室内を調べたところ、10匹の死骸が見つかり、3匹が生き残っていたという。府警は女が飼育を放棄したとみて行方を追っている。
捜査関係者らによると、女は一人暮らしで、自宅で13匹飼っていたが、昨年秋頃からほとんど家に帰らなくなったという。異臭がすると通報があり、府警が調べると、散乱したごみの中やベッドの上などで死骸が見つかった。1匹はミイラ化していたという。
生存していたのは、5歳前後のオス2匹、メス1匹。発見後、近隣住民を通じ、大阪府能勢町の動物愛護団体に保護された。獣医師の検査の結果、やややせてはいたが、健康状態に問題はなかったという。
近所の住民らによると、女は数年前に親族と同居しており、その親族が犬を飼い始め、約半年前から次第に数が増えていったという。60歳代の男性は「以前は鳴き声がうるさかったが、最近は静かで、おかしいと思っていた」と話した。
(2012.02.25 読売新聞)
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カテゴリ : 時事社会