東海第四・西嶋投手の「超スローボール」浮動中第96回全国高校野球選手権大会は、大方の予想通り大阪桐蔭が三重を下し、2年ぶり4回目の優勝を果たした。地元の東海第四(南北海道)が優勝候補の一角とされた九州国際大付を1回戦で破るなど、いち野球ファンとしては十分に楽しませてもらった。
…と同時に、話題になった選手・裏方・指導者などに対する「出る杭は叩き潰す」という世論が目立ち、昨今のギスギスした世の中を象徴する大会でもあった。中でも顕著だったのが…
A 超スローボールを放った投手への批判
B 進学クラスを蹴った「おにぎりマネージャー」への批判
C 大量リードでも盗塁を指示したベンチへの批判…の3例である。ひとつずつ検証してみよう。
まずはAの事例。東海第四の西嶋亮太投手が、スピードガンで計測不能となるほどの「超スローボール」を投球したことに対し、フジテレビの岩佐徹アナがツイッターで
「投球術とは呼びたくない。意地でも」、「世の中をなめた少年になって行きそうな気がする」などと発言して物議を醸した。
岩佐氏は、これまでスポーツ実況アナとして何を見てきたのだろう。打者は日頃から「通常の投球を打つ」練習しかしないため、大きく山なりに落ちてくるボールに当てる方が格段に難しい。しかも、打者にとってこのような超遅球の後の速球は「剛速球」に感じるもので、戦術としては非常に効果があるものだ。
野球では
「たった1球の失投が勝敗を決める」ことは珍しくない。その前提で、あの投球は
「打たれない」と確信した投球と解釈でき、それは
紛れもなく「投球術」であり、岩佐氏の言葉は説得力に欠ける「放言」でしかない。
次にBの事例。春日部共栄(埼玉)の記録員・三宅麻未マネージャーは、選手たちへのおにぎり作りに「やりがい」を見出し、最難関校受験の選抜クラスから普通クラスに転籍した経緯を持つ。これまでに2万個のおにぎりを作った「陰の功労者」としてメディアに取り上げられた。
…が、これにツイッター民が噛みついた。曰く、
「性別役割分業を助長する」、「学業よりおにぎりって美談なのか?」、「典型的な性別役割分業構造」、果ては
「この女子マネージャー死ねよ!(激怒)」という暴言も…。
だが、昔から運動部の女子マネなど珍しくなく、今さら存在自体を批判される筋合いはない。要は「選抜クラスを蹴ってまでおにぎりを作る甲斐甲斐しさ」への嫉妬ではないかと思われるが、やりがいを感じて本人が決めたことに対し、外様がとやかく言うことではないだろう。
そもそも「性別役割分業」を持ち出すなら、これも昔から存在する「チアガール」も同様で、なぜ今まで黙認してきたのかということにもなる。よって、このような後付けの批判は何ひとつ説得力を持たない。
最後にCの事例。機動力を武器にする健大高崎(群馬)は初出場の利府(宮城)戦で、点差が開いてもなお盗塁などを駆使し、10対0と圧勝した。これに対し、
「対戦相手を侮辱している」、 「点差が開いたら盗塁しないのが暗黙のマナーだろ」などという批判が集まった。
確かに、日本のプロ野球や大リーグには、そうした「暗黙のルール」がある程度は存在するが、それは
「次の同カード対戦」が何度もあるリーグ戦ならではのルールであり、また、営利興行である以上は「あまり観客をシラけさせたくない」という事情背景もある。
だが、
全試合が「背水の陣」(トーナメント戦)であり、また大前提が
「教育の一環」である高校野球で
「点差が開いたら手を抜け」という理屈はおかしい。それこそが「相手に対する侮辱」であり、何より
「全力でプレーする」と誓った選手宣誓にも背くことになる。
まして、今大会の地方予選(石川県)では、星陵が9回裏に8点差をひっくり返す逆転勝利を収めたのが大きな話題となったばかりである。最後まで何があるか分からない状況の中、
最後まで容赦しないプレーを「卑怯」だとする理屈が正しいとはとても思えないのだが…。
◇
ツイッターというツールは便利な反面、ひとつ間違えば善良な一般人を簡単に傷つけることのできる両刃の剣だ。それが高校野球の批評でもフルに活用(?)され、
一般の未成年であるはずの高校生を叩きのめした。
あくまで「生徒」である彼らは当然ながら反論も報復もできるはずがなく、叩く方もそれをよく分かっている、いわば
「弱い者いじめ」そのものの構図である。
爆破予告などの犯罪でない限り、何をつぶやいても自由なのは当然だが、「赤信号みんなで渡れば怖くない」という集団心理が働いているようで、さらに他人の発言を「リツイート」という形で引用拡散できるため、
「自分の言葉ではない」という言い訳ができる機能も「炎上」に拍車をかけている。
こうして悪気のない高校生までもが「標的」になる時代であり、出る杭は容赦なく打って正義を振りかざすネットの暗部…実に恐ろしい時代になったものだ。
え?このブログも五十歩百歩だって? …ごもっとも
