
漫画「鉄人28号」のブリキ製おもちゃ(25万円相当)を万引きしたとされる男性に対して、「返還しなければ顔写真を公開する」とHP上で警告していた古物商「まんだらけ」が、公開予定時刻の本日午前0時過ぎにに「公開を中止する」と発表した。(最後部に報道記事)
最大の理由は「報道陣が詰めかけ、犯人が入店できない状態だった」としているが、にわかには信じられない話だ。あたかも「マスコミや野次馬がいなければ商品は戻っていた」という前提の理屈だが、「店に行けば捕まる」という犯人の心理を考えれば、宅配便などを使って返還する可能性の方が高いはずだ。
また、昨日の午後8時の閉店時間までに返還がなかったわけだから、遅くてもその時点で中止の発表はできたはず。それを「公開処刑時間」である午前0時まで引っ張ったことに、店舗側の作為を感じる。
つまり、メディアも世論もまんまと踊らされた「炎上商法」ではないかと…。
メディア各社は、昨日まで店舗側の行為を「やりすぎ」「私刑は禁止されている」「脅迫罪に当たる」「気持ちは分かる」などと喧々諤々の議論をし、市民からも賛成・反対の意見を募っていた。
そして店舗側は、公開予定時刻の寸前まで「警察から中止要請?知らんがな」というスタンスだったのだが、結果として要請を受け入れた形になった。
これは全くの私見だが、店舗側も当初は本気で公開するつもりだったが、予想以上に反響が大きくなり、さらに自身も犯罪者になる可能性があると指摘された時点で、公開する気は失せていたのではないだろうか。
だが、注目され過ぎただけに振り上げた拳を下ろせず、ならば最後まで引っ張り、世間の注目が頂点に達したところで「不本意ながら中止」という結末を演出すれば、批判もされずに英雄扱い…という心理で考えれば辻褄が合う。
メディアの取り上げ方から察するに、わざわざリスクの大きい「公開」をせずとも億単位の価値がある宣伝効果をタダで手に入れた結果となり、店舗側としては「してやったり」の高笑い中という可能性がある。
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日本は被害者よりも加害者の人権が尊重される国であり、「窃盗」である万引きを「立ち小便」(軽犯罪)程度にしか考えない世間や警察の事なかれ主義を踏まえると、万引き被害に悩まされ続ける小売業の、自衛手段としての公開予告は「あり」だと考えていた。
それが、あれだけ騒動を煽りながら結果的に信念を曲げた以上、ノーリスクの売名行為だったと思われても仕方がない。店舗側が「単なる虚勢」で終わったのであれば、せめて警察には何としても犯人を検挙してほしいものだが…。
「万引き犯」写真公開、まんだらけが中止 反響大きく
アニメのフィギュア(人形)などを販売する古物商「まんだらけ」(東京・中野)が、おもちゃを万引きしたとする男性の顔写真を公開しようとした問題で、同社の広報担当者が13日、取材に応じ「今後の防犯効果を狙って公開しようとしたが、想定以上に反響が大きかったので取りやめた」と説明した。
同社は5日、おもちゃを1週間以内に返さなければ防犯カメラに映った顔の写真を公開すると警告をホームページに掲載した。
同社によると、警告が報道された後、多数のメールや電話が寄せられ、小売店主から「うちも万引きは死活問題。顔写真を出して抑止してほしい」という声があった一方、「やりすぎではないか」という批判もあったという。
小売業者などでつくる全国万引犯罪防止機構(東京)が全国約5万店を対象に行った調査によると、2013年度の万引きの推計被害額は837億円。同機構の福井昂事務局長は「倒産に追い込まれる例も少なくない。業者が厳しい姿勢を見せないと集中的に狙われる」と一定の理解を示す。
日本弁護士連合会情報問題対策委員会の吉沢宏治弁護士は「警察が公開捜査するならわかるが、一方的に犯罪者と断定してモザイクのない顔写真を公開するのは名誉毀損罪に当たる可能性がある」と指摘している。
(日本経済新聞 2014.08.13)