永遠も半ばを過ぎた

フリーデザイナー兼カメラマンの苦言・放言・一家言

日本の最大禁忌 「フクシマ」

2014/06/18(水)
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写真(C) Getty Images

民主党政権時代は面白いように閣僚の失言・暴言が飛び出し、辞任騒ぎなどは同党の「お家芸」とも言えるものだった。ところが、政権再交代を果たした第二次安倍内閣は良くも悪くも「仕事をしている」のが国民にもよく分かるうえ、しかも発足時から高支持率を維持しているとあって、「安倍(自民)憎し」のメディアがずっと手をこまねいていたのは論調からも明白だった。

そこに突然、降って湧いた石原環境相の「最後は金目(かねめ)でしょ」発言に各社は色めき立ち、鬼の首を取ったように一斉に報じた。その波紋は広がる一方のようだが、「波紋を広げるような言葉狩りをした」と言った方が正確な表現なのかも知れない。(最下部に報道記事)

本題に入る前に、「NIMBY(ニンビー)症候群」なる言葉をご存知だろうか。「Not in my back yard」(自分の裏庭には要らない)の略称で、特定の施設に対して「その必要性は認めるが、自分の居住地域には作ってほしくない」という住民のエゴイズム感情だ。これは住民の主観で「迷惑施設」と判断されているもので、一般的には「葬儀場・墓地・火葬場」「廃棄物・屎尿処理施設」「精神科病院」「軍事施設」「食肉処理施設」「刑務所」などが挙げられる。

東日本大震災以降はこれらに「原子力発電所」が加わり、さらに除染作業で出た汚染土壌の「中間貯蔵施設」もこのたび“仲間入り”した。そして遠くない将来には「最終処分場」も登場することになる。

これらの施設が嫌われる大きな理由は、施設の稼働による環境汚染の懸念、または施設の存在自体が地域のイメージダウンとなり、地価下落をも招きかねないとの不安感から来るものだ。その土地への誘致計画が出ようものなら住民は一丸となって反対運動を起こし、住民説明会などでは口角泡を飛ばしながら感情をむき出しにして嫌悪を表明することも少なくない。

そして、この反対運動はしばしば「駆け引き」にも利用される。施設の存在による「特例的な受益」次第で妥結する場合が多いが、「特例的受益」とは他ならぬ「金目」であり、反対表明はそれを増幅させる。俗に言う「ゴネ得」である。

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もちろん、これは一般論としての話である。だが、今回の騒ぎに当てはめると、「住民説明会ではお金(補償)の話が多く出た」(石原氏)のであれば、この発言は「交渉の本質を突いてしまった」のである。

原発事故が起きてしまった以上、国内のどこかに中間貯蔵施設を設置しなければならないのは紛れもない事実。そして福島県大熊・双葉両町が候補地になってしまうのも、経緯と状況を考えれば仕方がないと住民も納得しているからこそ「お金(補償)の話」にもなったのだろう。

元より、政府は金銭以外にどうやって誠意を示せばいいのだろうか。安倍首相をはじめとする全閣僚が一列になり、住民に土下座でもすれば無条件で受け入れるのか…そういう問題ではないだろう。事実として、最後は国民の税金による金銭的補償しか道は残らないのだ。

だが、メディアはそんなことを百も承知で言葉狩りをし、「無責任」「不誠実」「他人事」などの単語を羅列して吊し上げた。まるで「我々は被災者に寄り添った報道をしている」とでも言いたげだが、彼らにとっては自社の死活問題という話でもなく、「ネタのひとつに過ぎない」のが偽らざる本音だろう。震災後に会社独自で義援金を出したメディアはただの1社でもあるだろうか。オフの日にボランティアとして被災地にかけつけた記者はいるだろうか。

「他人事」と考えることは往々にして批判の対象になるが、人間とは己や家族が当事者にならない事象には「無関心」かつ「他人事」である。それはメディア然り、福島の被災者も然りだ。毎日ニュースで流れる殺人事件や死亡交通事故に際し、「見知らぬ被害者や遺族の心情を思うと、悲しくて日々眠れない」という人間はいない。そう、文字通り「他人の事」なのだ。

かつての「サティアン発言」にも見られるように、どうやら石原氏には「言葉選び」という能力が欠けているようだが、それにしても今回は騒ぎ過ぎである。これは、選んだ言葉(金目)が「被災者の心を傷つけた」などという単純なことではなく、福島県が「フクシマ」と表記され、被災者も含めて禁忌(タブー)化されていることに他ならない。

スポンサー、警察、皇室、同和、創価学会、在日など、マスメディアには多くの「報道(批判)タブー」が存在するが、これらとは比較にならないほど大きな禁忌が「国民」なのだ。個別の犯罪者でもない限り、国民のことは絶対に批判しないのが「常識」となっており、国民の中でも特に「被災者」というカテゴリは絶対的な不可侵領域になってしまっている。

そのため、賠償金や義援金でパチンコ三昧などという一部被災者の実態を把握していながら見て見ぬふりをしているのだ。そう考えると、今回の加熱報道(住民擁護)ぶりは「さもありなん」だが、ことさらに「フクシマ」を腫れ物扱いすることが今後の復興にどのような影響を与えるのか、私たち国民はよく考える必要があるのではないだろうか。

「きれい事」は、もうたくさんだ。



石原環境相「最後は金目でしょ」 中間貯蔵施設巡り発言

石原伸晃環境相は16日、東京電力福島第一原発事故の除染で出た汚染土などを保管する中間貯蔵施設の建設をめぐり、首相官邸で記者団に対し「最後は金目(かねめ)でしょ」と語った。

政府は候補地の福島県大熊、双葉両町の住民説明会を15日に終えたばかり。石原氏は16日午後、官邸で菅義偉官房長官に、今後の事業日程などを報告した。面会後に石原氏は「説明会が終わったから今後の日程について話をした。最後は金目でしょ。(菅氏は)こちらが提示した(住民への補償の)金額については特に何も言っていなかった」と記者団に語った。

中間貯蔵施設建設では、地元への交付金額や地権者に対する補償額が焦点になっている。石原氏の発言は、政府が地元との交渉を金で解決する意図だと取られかねない。

石原氏は同日夕、急きょ記者団を集め「住民説明会ではお金(補償)の話が多く出た。最後はお金の話だが、それは今は(金額を)お示しすることができないという意味で話した。お金で解決するとは一度も言ったことはないし、解決できる話ではない」と釈明した。

石原氏は自民党幹事長だった2012年、報道番組で福島第一原発を「第一サティアン」と呼び、地元の反発を招いた。

 (朝日新聞デジタル 2014.06.16)


カテゴリ : 報道誹議
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