まずは、上の動画をご覧頂きたい。
阪神×広島の2軍の試合で、低めの投球を「ストライク」と判定された阪神側の平田監督が、球審に対して猛抗議するシーンである。誤審シーンをピンポイントで寄せ集めた動画なので詳細は不明だが、これより前から「微妙な判定」が繰り返され、ついに堪忍袋の緒が切れた…という事情だったのかも知れない。
とはいえ、たとえ監督でも審判の判定に抗議することは認められていないため、ましてこの言動は許されるものではない。これは決して「審判が偉い」ということではなく、ルールブックにそう定められているのだ。
公認野球規則 9.02 審判員の裁定
(a) 打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、あるいは走者がアウトかセーフかという裁定に限らず、審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから、プレーヤー、監督、コーチ、または控えのプレーヤーが、その裁定に対して、異議を唱えることは許されない。監督に認められているのは、審判の判定が「ルールの適用を誤っている」疑いがある時のみ、当該審判にその訂正を「要請できる」だけである。プロ野球では珍しくもない「抗議シーン」も、本来は明らかなルール違反なのだ。
そもそも、この投球は本当に平田監督が言うような「クソボール」なのだろうか。動画を元にボールの軌道を再現した画像を作ったので、確認してみよう。

この角度では何とも言えないが、少なくてもこの映像だけで判断する限り「低めいっぱいのストライク」に見えないこともない。では、「ストライク」の定義は何か―。公認野球規則では、
「打者の肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、ひざ頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間をいう。このストライクゾーンは打者が投球を打つための姿勢で決定されるべきである」と定めている。
写真:Wikipedia 「ストライクゾーン」より上の写真で分かるように、打者と捕手との距離が1メートル近いことを考えると、ボールは本塁上を通過する際に「ひざ頭の下部より上」を通っているように見える。「クソボール」に見える理由があるとすれば、
球筋が山なりのため捕球時のミットの位置が低く、さらに勢いで押し下げられているためとも考えられる。
何にせよ、ルール上ではどんな悪球でも審判が「ストライク」と言えば、それはストライクなのだ。先の動画で平田監督は球審に対し「勘違いしたらアカンよ~」と言っているが、勘違いしているのは監督の方であり、実況や解説者も同様だ。
繰り返すが、決して審判が「偉い」のではなく、野球が
「審判員の権限のもとに、本規則に従って行われる競技」(公認野球規則1.01)と定義されている以上、それが“ルールに従った立場”なのだ。
また、日本のプロ野球には他国にない「アンフェア精神」が一部あり、国際大会では毎回ヒンシュクを買っているという。まずは次の写真を見て頂きたい。

特に珍しくないシーンに見えるが、一塁での判定の際、攻撃側のコーチャーが「セーフ」のジェスチャーをしている。これは「一度下された判定は覆らない」のを承知のうえで、審判が「つられてセーフにしてしまう」ことを期待しているためだ。
このように卑怯で姑息なことをしていながら、「予想外のアウト判定」には猛烈に抗議し、挙げ句に「誤審だ!」と騒ぐのである。これが国際大会で「日本野球は一塁審判が二人いる」と揶揄され、アンフェアな行為として知られている。正しい判定をしてほしいのなら、まずは黙って見ていろと言いたい。
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先日、約25年のキャリアを持つベテラン審判員が連盟を去った。2014年から「投手の、3塁への偽投の禁止(=ボーク)」が公認野球規則に付加されたことに伴い、これを含めた全種類の「ボーク宣告の徹底」がシーズン前に審判団で確認されたことに起因している。
当然ながら、少年野球は大人に比べて技術が未熟で、ルールに関しても無知な場合が多い。特に投手はボークを犯すケースが多いのだが、「可哀想」という理由でそれを取らない(取れない)審判は決して少なくない。数ある判定(裁定)の中で、最も審判の「主観」と「決断」に左右されるのがボークだ。
走者に無条件進塁を与えることになるボークは、時に試合の流れを大きく変える。そのため、それを視認しても投手の気持ちを思ってか「ザッツボーク」と言えない。脱退した審判も、長いキャリアの中でおそらく一度もボーク宣告をしたことがなく、「ボークは厳しく取れ」という連盟の方針について行けなくなったという。
「まだ子供だから(ボークは)仕方がない」という考え方もあるだろうが、「子供だからこそ“ルール遵守”を教育しなければならない」というのが連盟のスタンスである。ボークは「走者を欺く行為」という視点から禁止されているため、「不注意」というケースが大多数の少年野球でも、それは「ルール」として厳格に運用しなければならないのである。
審判は「きちんと判定できて当たり前」という立場。非難されることはあっても、決して褒められることはない。「試合に勝てばチームの実力、負ければ審判のせい」などとも言われ、割に合わない立場だ。だが一方で、野球というスポーツの難しさと奥深さがいちばんよく分かる立場でもある。
「野球観戦オヤジ」たちには、ぜひこの世界に入ってほしいのだが…
