写真(C)毎日新聞4月29日に発生した関越道ツアーバス事故で本日、ドライバーが逮捕された。「悪意なき犯罪」とはいえ、結果的に7人(今日現在)もの生命を奪ってしまった代償はあまりにも大きかったようだ。
各種報道で、バス業界(観光など主に長距離)の過酷な実態が明らかになっているが、規制緩和による価格競争で「起こるべくして起きた事故」との声も多い。総じて運輸業界の主役(ドライバー)たちは、責任の重さに見合わない低条件で働かされているようだが、50人の命を預かって走る観光系のバスドライバーがその最たる例だろう。
ツアーを企画するエージェント(旅行会社)は1円でも安い商品(ツアー)を作るため、徹底したコスト削減をしている…と言えば聞こえはいいが、エージェントの企業努力というよりは、宿泊施設・添乗員派遣会社・バス会社などの下請けに極端なダンピングをさせているというのが正確な表現だろう。当然、バス会社は人件費を抑えるため、安全性へのコストもカットせざるを得ないという構図だ。
しかも、運転業が「割に合わないだろうなぁ」と思うのが、個人の免許証で仕事をしなければならない点だ。車両の運転には「刑事・民事・行政」という三大責任が付きまとうが、たとえ業務中の事故であっても会社補償の可能性があるのは、損害賠償などの民事責任だけだろう。重大事故を起こせば刑事責任として逮捕され、免停や取り消しなどの行政責任も個人が負うことになる。
そして、全国の観光バス乗務員の中でも最悪の条件下で働かされているのが、わが地元の北海道なのかも知れない。
今でこそ少しは落ち着いているが、ひと昔前の北海道ツアーは目を覆いたくなるほどの低価格競争が続いていた。中には「東京発着・添乗員同行・2泊3日」で2万円を切るというケースもあったほどだ。下請けであるバス会社は請負価格を抑えられ、土地が広大な北海道では観光地から観光地までの移動に1時間半かかるということもザラである。当然ながらドライバーの走行距離も延び、「一日600kmは当たり前」のような世界観なのだ。
また、乗務員の宿泊にも北海道特有の事情がある。一般的に宿泊の伴うツアーでは、乗務員も旅行客と同じ宿に泊まるものだが、北海道に限っては、主な観光地に必ずある「乗務員専用宿舎」に泊まるのだ。「ダンピングの塊」とも言える北海道ツアーには、乗務員が客と同じ宿に泊まる予算など含まれず、宿舎のクオリティも「雨風しのいで寝れりゃいい」という程度だ。
その日の行程によっては、朝7時に出発~夜8時にホテル着ということも決して珍しくなく、客を降ろした後には洗車や車内清掃、業務日報作成などの雑務が待っている。こうした「労働基準法クソ食らえ」と言わんばかりの過重労働に耐えているのが北海道の観光バス乗務員なのだ。
これほどの労働環境にも関わらず、バスを運転するための大型二種免許取得は至難の業だ。現在は普通免許と同様に教習所の「卒業検定」でも取得できるようになったが、約10年前までは運転免許試験場での技能試験(一発試験)に合格するしかなかった。その確率は約1割と言われ、「20回落ちた」という人も珍しくないほどの難関な資格だった。「プロ中のプロ免許」と言われる所以だ。
苦労して免許を取得し、過酷な労働に耐え、しかも年収は下がり続ける。そして重大事故を起こせば一生を棒に振る…何という不条理な世界なのか。
今回の事故はドライバーに重過失があったと考えるに疑う余地はなく、遺族はさぞやりきれない思いだろう。だが、元を質せば、エージェントが安全性すらコストカットしなければならないほどに「とにかく安く」というニーズを生み出した私たち消費者の責任も重大なのではないか。
事故を起こしたドライバーやバス会社を批判するのは簡単だが、「激安」という言葉が歓迎される業種と、そうあってはならない業種があることを理解できない私たちにそんな資格があるのか、よく考えるべきだろう。
責任だけが大きすぎる「プロ免許」って…